社会保障の問題が浮上すると頻繁に話題にあがる“ベーシックインカム”構想。政府がすべての国民に最低限の生活(衣・食・住)保障を定期的に与えてくれるというもので、国民の誰もが一律の現金を、無条件で得られるというシステムのことです。

 

最低限の生活(衣・食・住)でよしとするならば、働かなくても暮らしていけることになります。具体的にいうと、現在、生活保護を申請して5~6万円を受け取っているとしたら、ベーシックインカムの国家になれば、手続き申請をしなくても5~6万円を受け取れるということで、年金のように決まった金額が自動的にもらえるのです。

 

保障される額によって左右もされますが、働いてはいけないわけではないので、働けばベースの5~6万円に稼いだ分だけ上乗せされて、収入が増えることになります。

社会主義と“ベーシックインカム”の違いは、この部分にあります。保障額があるうえで稼いだ分はしっかり自分の財産として蓄えることができるので、資本主義の中で“ベーシックインカム”は、矛盾することなく成り立つのです。

 

現実的に考えると、本当に何もしなくても生活できる金額が保障されるのかは難しいところかもしれません。一方、障害者・母子(父子)家庭・高齢者などの社会的弱者にとっては申請がなくても現金が受け取れ、大変に助かるシステムのはずです。非正規雇用者など、低賃金で働かざるを得ない労働者などにとっても非常に助かる国策ではないでしょうか。

 

これにより働く時間が減り、仕事をしない分自由時間の選択肢が増え、家事や育児、介護に充てることが可能に。趣味やボランティアなどに当てる時間も増えるかもしれません。

 

今後の何十年かで、労働の自動化が一気に進むことが予想されています。急激に仕事が少なくなり、社会不安が広がることも考えられますから、一番の余波を受けそうな社会的弱者や働きづらい労働者たちは、“ベーシックインカム”を歓迎するのではないでしょうか。

一方、税の負担が大きい高額労働者たちや、社会保障制度が廃止されることによって仕事がなくなる一部の公務員など、“ベーシックインカム”の余波を受けそうな階層からは、反対の声が多いかもしれません。

 

 

 

ベーシックインカムを導入しようとしたスイス

 

ベーシックインカムを導入しようとしたスイスでしたが、結果は2016年6月5日の国民投票で否決となりました。もともと、導入推進派が10万以上の署名集めをして国民投票へと導いたわけですが、投票率46.3%、反対多数76.9%、23州すべてにおいて反対票が上回る結果で終わったのです。

 

 

「貧困撲滅」を掲げた推進派は、導入後の金額として、成人には毎月2,500スイスフラン(約27万円)、未成年は625スイスフラン(約6.8万円)を提案しましたが、連邦政府側は、年間の財源が2,080億フラン(約22兆7千億円)必要だと試算し(スイスのGDPは6,428億フラン)、財源の内訳は、1,530億フランが税金、550億フランは社会保障費の削減だということなどで、反対を唱えていました。

 

他にも、懸念される材料として経済界や労働組合がそれぞれ、勤労意欲の喪失、年金受給者に減額者出ることを理由に挙げ、反対に回ったようです。

それに対し、推進派市民団体の主張は、現行の社会福祉制度を変更すれば対応できるということでしたが、結果は見ての通りでした。

 

もともと、 “人工知能やロボットによる仕事の自動化がますます進み、仕事は減り、働き口が減少していることが顕著になる”という危機感が推進派にありました。セーフティーネットとしての必要性においてベーシックインカムの訴えを続け、国民投票にまで至ることに。他に、フィンランド、オランダ、カナダなどでも、ベーシックインカムについての試みが行われる可能性があります。

 

つい先日まで、「スイスが世界初のベーシックインカム導入国になりそう」と全世界から期待されていましたから、その結果に他国も驚いたようです。(ブラジルはすでにベーシックインカムを段階導入する法制化済)

 

ベーシックインカムはいいことなのか悪い事なのか

 

現行の社会保障制度を廃止して、全員に一律の現金を与えるベーシックインカムとは、生きることを尊重し、平等を根底にする構想ですが、メリットがあればデメリットもあり、賛否両論あるでしょう。

 

ベーシックインカムの全体を見通してから、果たしていいことなのか、悪いかことなのか、あるいはどちらも甲乙つけがたいのかを、一人一人が判断することが重要ではないでしょうか。では、メリットとデメリットをいくつか見ていきましょう。

 

メリット

 

・貧困層の減少

障害があって働けない、母子(父子)家庭で収入が少ない、賃金が低い、年齢的に働けないなどで、一定の収入を得ることが難しい階層は、定期的な現金収入があれば、それだけで救われます。

 

・少子化対策

子どもが一人でもいれば、大学卒業時点で最低でも3,000万円弱かかるようです。子どもを二人、三人育てるとなると、現金は必要になるでしょう。

 

・起業の増加

起業するには、多くの運転資金が必要ですから、失敗のリスクを考えて諦めていたケースも多いといいます。失敗しても最低限の保障があれば優位に考えるでしょう。

 

・労働意欲の向上

所得制限がなくなれば、働くほどに収入が増えますから、食べるための収入ではなく、生活を豊かにするための収入という目的に変化するでしょう。

 

・ブラック企業の減少

これまで、生きていくお金のために劣悪な環境でも我慢して働いていたかもしれませんが、収入が最低限保障されれば、ブラック企業では働かないでしょう。

 

・貧困による犯罪の減少

主に海外での事例が多い貧困による犯罪。貧困家庭や貧困地域で育つがゆえの犯罪につながってしまう確率が高く、収入があれば安心感が生まれるでしょう。

 

デメリット

 

・財源の確保難航

どこの国でも財源の出所が明確にならなければ、支給額も決まらないことになります。従来の社会保障制度を止めての移行ですから、プラスする財源も含めて大きな課題になるでしょう。

 

・雇用企業の人材選別

ベーシックインカムを理由として、企業側の採用は限定的になりやすく、少しでも優秀な人材を入れ、不要な人材は削減するという、競争激化が予想されます。
・労働意欲の低下

一概に労働対象者が全員、労働意欲が低下するとは考えにくいですが、人間ですから、働くことを止めようとする現象が少ないとは言い切れないでしょう。

 

 

このようにいくつかのメリットやデメリットが考えられますが、来たる労働の無人化時代に、高い失業率が世界的な問題になると予測される今、セーフティーネットの一つとしてベーシックインカムをどうしていくのかというのは、日本でも遅かれ早かれ、他人事ではなくなるでしょう。

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